今まで食べてきた肉

「いやぁ、『衝撃』の一言ですね。今まで食べてきた肉はなんだったのかって感じですよ」
薄笑いを浮かべ、レポーターが喋る。いい笑顔のつもりなんだろうが、不快感しか沸いてこない。
「はい、カットォーーー!」
ディレクターが大声を発し、撮影は終了した。お疲れ様でしたと感情のかけらもこもっていない声を義務的に放ち、その場を後にする。
「あの、すいません」
背後から声がした。振り返ると、底に立っていたのはさっきのレポーターだった。
「良かったらさっきの肉ちょっと分けていただけませんか。いや、あまりに美味しかったものですから両親にも食わせてやりたいと思いまして」
彼は相変わらず職業病かと思われるほどの笑顔を振りまいている。
「あんた」
「はい?」
「あんたさっき『今まで食べてきた肉はなんだったのか』とか言ったよな」
「ああ、それが何か?」
「分からないなら教えてやるよ。あんたが今まで食べてきた肉ってのはな、俺みたいな親父が汗水たらして一生懸命に育ててきた牛を殺して作り上げた肉だ」
「……」
「いちいち食べる時にそんなこと思い返す必要なんてない。でもな、そういう人間がいるからこそ俺やあんたを含めた人間が生きていられるんだということは覚えていて欲しい」
「…すみませんでした」
「いやいや、俺も言いすぎた。ああ、肉が欲しいんだったな。そうだ。せっかくだから手伝ってみないか?」


「宅急便でーす」
「あら、誰からかしら。えっと、ああ、和夫からじゃないの」
「手紙が付いてるな。なになに?『お父さんお母さん、この肉は食肉牛を育ててる方と僕で作った肉です。言うなれば、僕を育ててくれたお父さんとお母さんが作り上げた肉でもあります。是非とも味わって食べてください』ほう。じゃあありがたくいただくとするか」