言葉のない部屋

(この話は「世にも奇妙な物語」で1992年に放送された「言葉のない部屋」を文章化したものです。問題があったら消します。)
「俺はいづもひどりぼっちだ…」
 声に出したのか、心の中で思ったのかは分からない。例え声に出したとしても、返ってくる言葉がないのなら同じ事だ。都会に出たら楽しい事があると妄信していた俺に、現実は厳しい答えを返してきた。現状は田舎で鬱屈していた時となんら変わることはない。

 いつもの工場の帰り、通り道にリサイクルショップを見つけた。ふらりと立ち寄ると、そこは古びた商品で埋め尽くされていた。
「何かお探しかな?」
 顔を上げると、店主と思われる老人の顔があった。俺はなぜか店の隅にあったテープレコーダーを購入した。なぜそんなものを買ったのか自分でもよく分からなかった。
家に帰り、さっそくテープレコーダーの電源を入れ、声を吹き込んだ。それを再生すると、なんだか話し相手ができたような心持ちになった。俺は調子に乗り、あることないことを吹き込むことにした。
「俺は東京さ来て、仕事は結構つれえけど、でも、友達もいっぱいできて、ほんとに東京さ出てきてよかった…」
何を言ってんだろうと思いながら停止ボタンを押し、テープを巻き戻して再生ボタンを押した。
「東京さ出てきてもなーんもいいごとなんがねえ。友達もできねえし、田舎帰りてえ……」
自分が吹き込んだはずの内容が、全く違う言葉となって流れてきた。なんだこれは。違う。俺は…こんな……
「違う!違う…!」
必死に耳を塞いだが、その音を完全に遮断する事はできなかった。自分の現状を嘆く言葉を聞きながら、俺は絶叫するしかできなかった。
「死因は…心臓麻痺ですかね?」
「そうだろうな。かわいそうに。こんなに希望に溢れた若者が…」
検死官はそう言ってテープレコーダーの再生ボタンを押した。
「俺は東京さ来て、仕事は結構つれえけど、でも、友達もいっぱいできて、ほんとに東京さ出てきてよかった…」