同情

「それは同情?」
潤んだ目で彼女が言う。そんな質問は、きっと同情だと感じているから出てくるのだろう。ただ単に、それを否定して欲しいだけのことなのだ。しかし天邪鬼な俺は、そんな作戦にはのってやらない。
「同情だよ。当たり前じゃん」
「そっか。じゃあ遠慮しとく」
回れ右をして、彼女は去って行こうとした。本当は誰かに慰めてほしいのだろうに。全くもって面倒くさい女だ。
「待てよ」
彼女の足が止まった。そのことからも何か言ってくれるのを期待していたことが分かる。
「同情って意味知ってるか?『他人の苦しみ・悲しみ・不幸などを同じように感じ、思いやり・いたわりの心をもつこと』って意味だぜ?」
「そんなことぐらい知ってるよ」
「だったらさ」俺は自分の頬をちょっと指で掻いた。「そうしてもらうことってそんなに恥ずかしいことか?」
彼女は俯いたまま黙っている。
「お前の苦しみを分かってやろうなんて思うのは俺ぐらいなもんだぜ」
それを聞いて彼女は噴き出した。
「笑うところじゃねえよ」
彼女がこちらへ歩いてくる。天邪鬼な俺は、こっちから彼女に近寄ってやるなんてことはしない。