「キーチ!!」新井英樹

jikishi2004-09-01

人々の興味を引くものと言えば、目を覆いたくなるほどの残虐性、思わず涙するような感動話、不運で悲惨な主人公、など。そしてそれを読んだ時、「自分がこうでなくてよかった」「自分もこんな体験をしたい」などと感想を抱く。
新井英樹の漫画には、それらの要素がすべてある。いや、それは他の漫画家も同じかもしれない。だが、表現力という面でいえば、これほど素材をうまく料理する漫画家を他に知らない。彼には読者を満足させようなんて気はさらさらないのだろう。自分勝手にキャラクターを創造しては、破天荒な行動をさせたり、散々な責苦に遭わせたりする。一見乱暴だが、最後にはそのメッセージが確かに届く。
このキーチもそうだ。粗暴で手のつけられない少年が、悲惨の限りを尽くしたような日々を乗り越え成長していく様を描く。こんな曖昧な書き方しかできないのは、その通り文章では表現できないからだ。1巻はちょっと退屈かもしれないが、2,3と読んでいくうちにきっと抜け出せなくなると思う。「宮本から君へ」「ザ・ワールド・イズ・マイン」と良作を生み出した作者は、まだまだ満足していないみたいだ。